はじめに
介護の現場では、記録や情報共有にやたらと時間がかかり、スタッフの疲れがたまりやすいという話をよく耳にします。日報の作成や請求業務に追われ、「現場では常にバタバタ、職員も疲弊しがち…」という光景は決して珍しくありません。
こうした課題を解決する手段として最近注目されているのが、ICT(情報通信技術)やクラウドサービスを使った**DX(デジタルトランスフォーメーション)**です。といっても、「そもそもDXって何?」「うちみたいな規模やサービス形態でも使えるの?」と戸惑う方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、訪問介護・デイサービス・デイケア・小規模多機能型居宅介護の4つの事業形態を例に、導入前の課題や導入したツール、そして実際にどんな変化が起こったのかをまとめました。現場のリアルな悩みに即した具体例を紹介するので、「うちの事業所にも当てはまる!」と思える部分がきっとあるはずです。
訪問介護:スタッフ不足と書類作業の二重苦
事業所の規模・特徴
- 都市近郊にある中規模の訪問介護事業所
- 介護員は10名ほどだが、人手不足で一人が1日に複数の利用者宅を回らないと回らない状況
導入前の課題
- 紙の日報+Excel入力の二重作業 訪問先で紙に記録し、事業所へ戻ってからもう一度Excelに打ち込むため、スタッフが常に疲れ果てていた。
- 管理者も請求処理でミスが多発 データをまとめて請求システムに流し込む際、記入漏れや転記ミスが起こる。
- オフィスに戻らないと勤怠が打刻できない 「直行直帰OK」と言いたくても、実際には仕組みが追いつかず、結局スタッフは事業所へ立ち寄らざるを得ない状態。
導入したICTツール・サービス
- タブレット端末+介護記録・請求連動クラウドシステム 訪問先で記録を入力したら、そのままクラウドへ送信。二度手間がゼロに近づく。
- モバイルアプリ スタッフの出勤・退勤打刻や移動経路を自動で記録し、管理者もリアルタイムで確認できる。
導入後の変化
- 二重作業が完全に解消 タブレットで入力したデータが自動的にクラウドへ上がるので、「紙に書いてExcelに移す」という工程が不要になった。
- 請求処理のミスが激減 データは常に最新版としてクラウドに蓄積されるため、管理者が確認・修正するだけで完了。月末の残業が大幅に減った。
- 直行直帰が解禁になり、人材の定着率アップ スタッフから「移動負担が減り、家族との時間も確保できるようになった」という声が増え、離職率が下がっている。
デイサービス:記録業務とケア時間の板挟み
- 地域密着型のデイサービスで、定員30名ほど
- 利用者数はじわじわ増える一方、スタッフの頭数が足りずに困っている
導入前の課題
- 日々の状態を紙ベースで記録しすぎて、事務作業に追われる 請求処理や家族向け報告資料も手書きやエクセルで対応していて、事務スタッフや管理者が深夜残業もしばしば。
- レクリエーション企画の時間が取れない 本当は新しいプログラムを考えたいのに、書類仕事で手一杯になりがち。
導入したICTツール・サービス
- クラウド型記録ソフト(デイサービス専用) タブレットで利用者の日常を入力すると、自動で請求データに反映。
- SNS感覚の共有アプリ レクリエーションの写真や利用者の様子を、スタッフ間で気軽に共有。タイムライン形式で後から振り返ることも簡単。
導入後の変化
- 業務時間が2~3割削減 記録業務がタブレットに集約され、重複入力がなくなった。管理者の深夜残業も大幅に減っている。
- ケアに使う時間が増え、利用者家族からも好評 スタッフ同士の情報共有がスムーズになり、利用者の要望や体調変化にも即対応できるように。
- レクリエーションの打ち合わせが盛り上がる 「こんなイベントをやろう」というアイデアが積極的に出るようになり、デイサービス全体が活性化した。
デイケア(通所リハビリ):リハスタッフと介護スタッフの連携不足
事業所の規模・特徴
- 病院に併設されたデイケア(通所リハビリ)施設
- 理学療法士や作業療法士などのリハスタッフと、介護スタッフが混在している
導入前の課題
- リハビリ計画が紙で管理され、介護スタッフには見えにくい 「今この利用者さん、どこまでリハが進んでいるんだろう?」と一々声をかけないと分からない。
- 病院側のシステムと介護側のシステムが別 データが2か所に分かれていて、利用者の体調変化がうまく共有されない。トラブルやクレームにもつながりやすい。
導入したICTツール・サービス
- 施設内共通のクラウド型ケア記録ソフト リハスタッフと介護スタッフが同じプラットフォーム上で利用者の状態を入力・参照する。
- 電子カルテとのAPI連携 病院の電子カルテに入力したリハビリ結果や注意事項が、自動でケア記録ソフトにも反映される設定。
導入後の変化
- 利用者の状態やリハ計画をリアルタイムで共有 「リハスタッフがどんなメニューを行い、どんな変化があったのか」を介護スタッフが即座に把握可能に。
- 二度手間・ミスが激減 リハとケアの記録が一元化され、わざわざ紙を探したり口頭確認したりする時間がほとんどなくなった。
- 利用者家族への説明が一貫 リハ・介護双方から統一された情報が出せるので、「話が食い違う」「分からない」といった苦情も減少。スタッフ同士の打ち合わせも短時間で済むように。
小規模多機能型居宅介護:多様なサービス形態をまとめて管理
事業所の規模・特徴
- 登録定員25名ほどの小規模多機能型居宅介護
- 「通い」「訪問」「宿泊」を柔軟に組み合わせるため、利用実態が複雑
導入前の課題
- 利用者ごとの通い・訪問・宿泊をExcelで手入力 毎回、その履歴を請求データに起こすだけでも数日かかる。
- シフトがしょっちゅう変わり、連絡ミスが多い 「誰がどのユニットで何を担当しているか」が曖昧になりがち。
導入したICTツール・サービス
- 小規模多機能対応の総合ケア記録・請求ソフト 各サービス形態の記録をひとつのクラウドで管理し、スタッフもまとめて情報を参照できる。
- スマホ連動のシフト管理システム シフト変更があれば即時に通知され、スタッフ間で齟齬が起きにくい仕組み。
導入後の変化
- 通い・訪問・宿泊の実績が一元化 請求事務の手間が大幅に削減され、管理者が月末に慌てることがなくなった。
- スタッフ配置の連携ミスが激減 「誰がどこにいるか」「どの利用者が宿泊に切り替わったか」がリアルタイムで共有できるため、対応が迅速かつ正確に。
- 利用者の満足度アップ 情報漏れや二重対応がほぼなくなり、安定したサービス提供が実現した。
まとめ
訪問介護・デイサービス・デイケア・小規模多機能型居宅介護など、事業所の形態によってDX導入のアプローチは変わるものの、“紙の記録やアナログな事務作業を減らし、スタッフが本来のケアに集中できるようにする”というゴールは共通しています。現場ごとに微妙に異なる課題(請求作業の二重入力だったり、リハビリ情報の連携不足だったり)に焦点を当てて、必要なICTツールやサポートを導入すると、劇的に業務負担が軽くなるはずです。
- 自社(自施設)の最大の課題をはっきりさせる たとえば「管理者の請求作業が大変」「スタッフが直行直帰できず疲弊している」など、どこが最優先の問題なのかを整理しましょう。
- 課題に合わせたICTツールを選ぶ 訪問介護向けのモバイルアプリや、多機能型に特化したケア記録ソフトなど、専門性のあるソリューションを探してみる。
- スタッフへの研修や運用ルールもセットで計画 ソフトやアプリを導入しても、使いこなせないと意味がありません。丁寧なマニュアル作成と研修が欠かせません。
- 必要に応じて補助金や助成金も視野に 国や自治体がICT機器導入を支援している場合があるので、うまく活用すればコスト面の負担を軽減できます。
「うちの事業所には何がベストなの?」と迷ったら、導入支援の経験があるコンサルタントやIT企業、または補助金申請に詳しい専門家に相談する方法もあります。少しずつでもDXの整備を進めれば、いつの間にか「紙まみれ」「エクセル地獄」から抜け出せるはず。スタッフが元気に働ける環境を目指して、あなたの事業所でもDXの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。